原画60点とその解説はどれも感動的であり、油彩、アクリル、水彩、クレヨン、パステル、水墨などバラエティーに富んでいるところが驚くべきところです。技法にこだわらない好奇心にあふれた絵は、まさにこの個展のパンフレットのタイトルにもなった「融通無碍」、「天真爛漫」たるゆえんでしょう。
写真を撮るわけにも行かないので、この個展で展示されているもののうち、過去にポスターになった絵を探してきました。
「真如堂の「花の木」の紅葉は真っ盛り」

『解説』
真如堂は紅葉の名所として知られる。この堂はつい最近まで「知られざる」紅葉の名勝であったが観光名所に組み込まれてからは、今や京都随一のスポットになって無闇に賑わうようになった。
この成り行きを案じた画人は、往時のの面影を留めるために、祈りを込めて、この絵を指で描くのである。
煌びやかで絢爛な絵。情と智が入り混じる激しい色彩と筆づかい、絡むように表現の単純化をはかるのである。紅蓮の情念を一本の木に集約させ、すべてを燃え尽くす紅葉を今が盛りに描く。意表をつく構図だ。この大胆な描写に息をのむおもいである。
古来より日本人は「はかなき美」をもとめて心を揺さぶられてきた。「ほろびの美学」にいとおしさと懐かしさがこみ上げてくるのである。
「欲深い善福寺池の鯉」

『解説』
善福寺の鯉が欲深いかどうか知らないが、何となくそうみえてくる。
色鮮やかに斑紋をつけた魚の動きを軽快に描く。飛沫が上がり、筆捌きは絶妙だ。それにしても、なんでもない魚の戯れの図を春の風物詩にしてしまうから感心する。加えて、題名のつけ方がいい。
名画になるものはタイトルのつけ方によることが大である。絵というものは画面だけで成り立つものではないと心したいものである。
「岩手山の呼子鳥」

『解説』
茜色に染まる岩手山。裾野に飛ぶ白い呼子鳥が2羽、覚束(おぼつか)なく後を追う幼い鳥。やがて黄色い花畑も、赤一色に変容して、すべてが荘厳に満ちる情景である。
筆づかいは闊達、瑞々しいまでに色鮮やかである。そして、画面いっぱいの赤く柔らかな気韻が漂い、万物がゆるりと寛ぎ、秋の景色を示している。
この絵は画家の絵画観、自然観を反映したものである。